静かな時限爆弾、アスベスト、そして中皮腫

自分が悪性腹膜中皮腫(希少がん)
に罹患していると知った時。
なんで私が?と正直思った。
アスベスト(石綿)は天然の鉱物繊維、
石綿とも呼ばれるのは綿状の性質があり加工しやすく、熱などに強く安価なため、建設資材以外にも約3000種とも言われる、様々な分野で使用されてきた。
繊維の直径が髪の毛の1000分の1以下、ほぼ見えないほど細く、空気中にふわふわと浮遊したものを知らぬ間に吸い込み、それが体内の奥まで入り込み組織を傷つける。
中皮という肺や腹腔を覆う膜に
悪性腫瘍ができる。私の場合は腹膜の中皮に癌があるから、「悪性 腹膜 中皮腫」という癌の病名なのだ。
1938年にドイツの新聞に「健康に害がある」と発表されたが、その後も使用され続け、
日本では、段階的に使用を規制し
2006年にようやく「全面禁止」となった。だがそれまでに1000万トンも日本に輸入し使用されているのだ。
1970〜1980年代にはすでにアスベストの危険性は明らかになっており、国際的な規制の動きがあったにもかかわらず、日本は規制が遅れた。
吸い込むと、潜伏期間が20〜40年と
いわれている、アスベストによる健康被害。
中皮細胞から発生する悪性腫瘍(がん)のほとんどが、アスベスト(石綿)の暴露、つまり吸い込むことによる。
中皮腫で亡くなる人は
10万人以上とも言われている。そしてピークはまだこれから先なのだ。
日本国内でアスベストを使用した建物の解体ピークが2020〜2040年と予想されている。
発症しても、初期のうちは無症状で早期発見が難しく、健診で偶然発見されたり、私のように別の手術で発見されるくらいしか初期での発見は難しい。
そして、自覚症状が出てから死へ至るまでのスピードが恐ろしく速い。早ければ2ヶ月、そういう「がん」なのだ。
かつてアスベストを扱う仕事に
従事していた本人はもちろんだが、アスベストが付着したまま帰宅すれば家族も安全とは言えない。実際にアスベストを扱う工場付近に住んでいた人が発症している事実。
何が怖いか。
私は吸い込んだ記憶もなければアスベストを扱う仕事に就いていないのだ。だが実際に発症し「悪性腹膜中皮腫」患者になった。
アスベストを使用した建物を解体する際は専門の業者が解体を行わなければならない。
解体後、飛散性のものは耐水性の袋に二重にし、固形化させ「埋める」。
溶融設備で溶融できるものは溶融加工をし「埋める」。
無害化できるものは、無害化し再生利用もあるらしい。
一般的には大量に吸い込むと
健康被害を引き起こす、とされているが、はたして私は大量に吸い込んだのだろうか?だとしたらいつ?どこでだ?
規定に沿って解体すべき建物も、地震で崩れたらどうすることもできない。
飛散性のアスベストは市販のマスクでは防げないほどに細かな繊維。
サイレントキラーとも、静かな時限爆弾とも表されるアスベスト(石綿)健康被害。
実際私より年齢の若い患者も増えている。
私はアスベストを扱う職に従事ていた男性、若くても60代から上の人が発症するのだろう、程度のイメージを持っていた。
アスベストが由来で「がん」になる可能性、それは知識として知っていた。
しかし「中皮腫(ちゅうひしゅ)」という「がん」の病名までの知識はなかった。告知の時初めて聞いた病名だ。
しかも、「アスベスト=健康被害」
の認知はあったが、これほどまでに治療の選択が少なく、しかも死までのスピードの速い、恐ろしく予後の悪いがん、そして「中皮腫」に効果の高い抗がん剤が存在しないことまでは知らなかった。
希少がん、と言われるだけあって、患者数が少なく、中皮腫患者を扱った経験のある先生が少ないこと、治療に関しての情報が驚くほどに少ない。
正直、私には縁のない病気だと思っていたから、その衝撃も大きかったし、女性の患者も、若い患者がいることも驚きだった。
だから私が9年目の患者として
「生きている」のは偶発的に良い方向へ転がった、というだけなのだろう。あの時、婦人科へ行っていなければ、今の私は存在していなかっただろう(そこは母に感謝だ)。
悪性中皮腫(がん)が、私の腹腔内にゴマをうっかりこぼしてしまったかのように無数に散らばっていたのだから。
そして、横隔膜にまだ中皮腫は
存在している。だから私に完治は訪れない。
頼むから体内で大人しくしていてね、と願う以外、今の私にすべき治療が存在しないのだ。癌細胞が体内にあるのは明らかなんだけどね。
決して人ごとではなかったんだと、私は身をもって知った。
やはり「まさか」は突然にやってくるのだろう。
日本は地震が多い国なのだ。
地震による建物の崩壊で、アスベストが飛散し暴露する人が出ないためにも、アスベストの除去が進むことを願っている。
1000万トン、日本に入ってきているのだ。
私が願うのは、除去作業が進み
アスベストを使用している建物が日本からなくなること。
そして新薬の開発が進み、奏功率の高い抗がん剤を使用できる未来。
ある日突然「中皮腫」患者になっても、治療の選択肢が増える未来。
ミラクルが起きて、特効薬が
見つかったらいいな。
だって私は実際に、中皮腫に真摯に向き合い治療の突破口がないかを探してくれている先生をこの目で見たし、情熱をもって取り組んでくださっている話を聞いたのだ。
罹患した以上受け入れるしかないけれど
お花畑な夢をもっても許されるんじゃないかなと(笑)。
by 中皮腫患者 mochi
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